はじめに
ここでは、『密室のサクリファイス/ABISS OF THE SACRIFICE』をクリアした感想をつらつら書いていきます。
※ストーリーの核心部分には触れていませんが、クリア後の観点から書いているのでネタバレ注意です
本作は2010年にPSP専用ソフトで発売された『密室のサクリファイス』の移植版で、現行機向けにリマスターしつつヒント機能やギャラリーを追加した作品となっています。
ゲーム概要
ストーリー
地底深くに建造された巨大居住施設「ファウンデーション」。
いつの頃からか人類は、地上での生活を捨てこのファウンデーションに移り住むようになった。
そうして時が経つにつれ、いつしか移住した理由は忘れられ、地上のことさえも架空のおとぎ話として認識されるようになっていった。
それからしばらく。
ある日突如として大地震が起き、人々が5人の少女だけを残し一斉に消失するという異常事態が発生。
ファウンデーションは無人の空間となってしまう。
取り残された5人の少女は、互いに協力してこの窮地を脱するべくファウンデーションの探索を開始。
そしてその過程で、今回の異変の真相や地上の存在を知り・・・。
本作の特徴
SF×高難易度の脱出ゲーム
本作はSF要素満載の設定やストーリーをベースに展開される脱出ゲームとなっている。
巨大地下施設「ファウンデーション」を舞台に、ある時は先に進むためロックされた扉のギミックを解き、
またある時はアクシデントによって閉じ込められた空間から脱出するため、パズルのように周囲のものを利用するなど、
ストーリーの中に脱出ゲームの要素を違和感なく溶け込ませている。
ギミック自体も近未来を彷彿とさせるものから現代的なものまで様々あり、飽きさせない工夫がなされている。
ゲームの形式はオーソドックスなポイント&クリック。
画面内に落ちているアイテムをクリックして回収したり、気になる箇所や仕掛けを調べて暗号やパズルを解いていく。
難易度は高く、謎を解くために何をすべきなのかという取っ掛かりに乏しいため、詰まってしまう場面は多め。
が、移植版の本作では、PSP版ではなかったヒント機能を搭載。
それを活用して謎解きがしやすくなった。
この機能は最初から全てのヒントが示されているわけではなく、きちんと攻略段階に応じて順次公開されていく形となっている。
そのため、まだ解いていない仕掛けのネタバレをされるということはない。
また、ヒントによっては答えがストレートに書かれているものもあるが、そういったものには事前に必ず下記のような警告が表示される。
以上のようにヒント機能は配慮が利いており、安心して活用していけるだろう。
本作はヒントを利用してようやく適正難易度な感があるので、上手く使っていきたい。
5人それぞれの内面を描くストーリー
ストーリーは一つの大きな流れがあるが、その流れをメインキャラである5人それぞれの視点から見ていくという形になっている。
そのため、特定のキャラからストーリーや他のキャラを見るのではなく、キャラの素性や抱えている秘密をそのキャラ自身の視点から見ることができ、物語を多角的かつ重厚感のあるものにしている。
また、5人には上記スクショのようにそれぞれ個別のルートが存在。
プレイする順番は特に決められておらず自由に選択できるが、どのルートも他のルートと密接に関わっており、プレイ順によってはあるキャラの行動が別のキャラの状況や生死に影響を及ぼす。
そしてそれがエンディングにも影響し、どういう順番でプレイしてきたかによってエンディングは6通りに分岐する。
感想
良かった点
ガチ難のゲーム性
事前情報としてかなり高難易度のゲームということは知っていましたが、噂に違わぬ難しさでした。
最初のチュートリアル的なステージからもう難しかったです。
どうしても分からなくなったらヒント機能を使おうと思ってプレイしていたものの、ヒント一切なしでクリアできたステージはたった2つのみでした。
まさか一番最初のステージからヒントに頼るとは思ってなかったですね。
まぁ初めは大したことないだろうとタカを括ったプレイヤーを速攻詰ませに来てる感。
「何がそんなに難しいの?」と思われるかもしれませんが、自分がプレイしていて思ったのはやっぱり「何をすべきかが分からない」ことの多さですかね。
例えば見慣れない機械が目の前にドーンと置いてあったとして、これをどうにかすればクリアなんだなというのが分かってもどう動かせばいいのかがさっぱり分からない。
でも調べていくうちに色々仕組みやら法則やらが分かってきて、なんとか動かすことはできるんですが、それでクリアではなく今度はまた別の分からない仕掛けが出てくる。
これの繰り返しが多く、プレイ中は常に四苦八苦でした。
しかも場合によっては発想に連続性がないのもあり、それぞれの仕掛けにはそれぞれ別の発想やひらめきが必要だったりして頭を柔らかくしないと詰む仕掛けもあったりします。
そんな感じなので、ヒントなしでのクリアはまぁー無理でしたね。
というか終盤はヒントありでも「え?」ってなるものが多いという・・・。
ただ、その分自力で解けた時の快感たるや凄まじいものがあります。
これが癖になって最後まで飽きることなくクリアできましたね。
陰鬱ながらも神の視点で楽しめるストーリー
ストーリーはかなりシリアス、というより陰鬱な感じが強いです。
いかにもな萌えイラストのキャラクターと物語のギャップが凄まじいだけに、余計精神を抉られます。
キャラによっては生い立ちもえぐく、
・継父から性的暴行を受けており、それを知った実母が継父を糾弾するのではなく娘(そのキャラ)に向かって「なんて子・・・」と不快感を露わにする
・物心つく前にとある研究施設に連行され、そこで日常的に人体実験を受けており、その上満足に教育も施されず(おそらく下手に知識を持たれては困るという意図的な理由)、17歳なのに精神が小学校高学年相当と未成熟のまま育つ
という感じで結構攻めてます。他のキャラの過去も程度の差こそあるものの割と悲惨です。
そういう風に5人にはそれぞれ暗いバックボーンがあり、プレイヤーは各ルートを通してそのことを知っていくんですが、この5人って昔からの知り合いとかではなく、全員初対面なんですよね。
たまたま出会って行動を共にしているだけであって、しかも置かれている状況が状況なので、親しくなる雰囲気が全くないという。
なので協力はし合えども腹を割って話す機会がなく、互いに誰がどういう闇を抱えていてどんな地雷を持っているかを知らないので、意図せずそれを踏んで一気に緊張状態になることが少なくありません。
で、そういった荒んだやりとりが(変な言い方になりますが)妙に白熱しており、見応えがあって面白かったです。
プレイヤーはゲームを通してキャラごとの事情を知っていて、傍から見て「あ、今地雷踏んだな」というのが分かるだけに、
「俺しーらね」という逃げたくなる感じ
と
「さぁ修羅場になるぞ~」という傍観者目線でニヤニヤする感じ
とが二重にあって尚のこと面白く感じましたね。性格悪いなこいつ
また、プレイヤーは各キャラの個別ルートを通して、メインキャラ5人には実は間接的な繋がりがあったり、劇中起きた異変の真相をいち早く知ることができたりして、5人よりも早い段階で全容のおよそ8割を把握することができるようになっています。残りはトゥルーEDのルートで判明
なので、神の視点から5人がいつそういった関係性に気づけるか、どのようにして真相に辿り着くかを追っていけるので、「そうそうよく気づいた!」とか「あー惜しい」と解答者を見守る出題者的な楽しさがありました。
黒子に徹している字の文
地味にいいなと思った点。
本作は5人それぞれの視点でストーリーを見ていきますが、所々に客観的な地の文が挿入されます。
この地の文がいい意味で淡々としており、変な癖や特徴がないため読みやすく、物語への没入を妨げることがありませんでした。
しかも一文一文がくどくなく、明瞭で読みやすいのも◎。
たまに地の文にライターの個性が出ててちょっと気が散ることってあったりしますが、このゲームにおいてはそんなことは皆無です。
好みの問題ではありますが、自分はこの点はシンプルによかったと思います。
悪かった点
知っているかどうかで差がつく仕掛けがある
中盤まではヒントを見れば閃きがあったり、なるほどそういうことかと納得できる感じでしたが、終盤に近づいていくにつれ、ヒント込みでもよく分からないものがやや多かったです。
特に終盤では、現実にもあるゲームをほぼそのまま流用しているものがあり、知っているか否かで難易度が上下するものもあったりしました。
その例としては、数独、マスターマインド、マインスイーパー、ピクロスが挙げられます。
自分の場合、とりわけマスターマインドは完全に知らないゲームだったので、ヒント見ても訳が分からないという感じでした。
幸い、ヒントで答えを教えてくれたので、泣く泣く謎解きを放棄して答えだけ入力して先に進んだという感じです。
数独はヒントを駆使しつつ攻略サイトでちょこっと答えを見て、できるだけ自分で解きました。まぁ半分は攻略サイトのお世話になりましたが
※マインスイーパーとピクロスは自分がよく知るゲームであまり苦戦せず解けたので、ここでは除外します
一応、初見の場合でもヒントを見れば答えを見ずとも解けると思いますが、中盤まではそういった現実のゲームを利用した仕掛けがなく、ほぼオリジナルの仕掛けが多かっただけに少し残念でした。
アイテムの場所までは教えてくれないヒント
他の脱出ゲームの例に漏れず、本作も落ちているアイテムを拾ってそれを謎解きに活用するという流れになっています。
が、ものによってはどこにアイテムが落ちているか分からないことが多いです。
パッと見背景と同化してたり、きわどい場所にあったりという感じ。
なのでどこに落ちているのかヒントが欲しいところなんですが、アイテムは自力で見つけてほしいのかそういった類のヒントはほとんどありません。
「〇〇を動かすのに必要なアイテムがどこかにあるので、まずはそれを探そう」という程度に留まっています。
いやだからそれがどこにあるのか知りたいわけなんですが・・・。
こんな感じなので、ゲームを通してアイテム探しは苦労させられました。
まぁでも「そんな所までヒントに頼るな!」ということなんでしょうね。
移植版は解像度が上がり、小さいアイテムは数秒おきに光るという改良が加えられていますが、PSP版はその辺がかなりシビアなことになっていたようですし。
あとアイテムの場所までヒントを表示してたら、ヒント自体の情報量が膨大になってしまうという事情もあると思われます。理由としてはこっちの方が近いのかな。
以上のようにアイテム探しは調整が入っているとはいえ、ステージによっては謎解きよりもアイテムを探す方が大変なことも少なくなかったという感じです。
スキップ機能が微妙に不便
一度見た会話パートや脱出パートはスキップが可能ですが、会話パートに関してはスキップというより厳密には早送りであり、完全に飛ばすことができません。脱出パートは完全スキップ可能。
本作はマルチエンディング制で、各ルートのエンディングに到達するにはクリアしたステージを反復する必要があるのに、会話パートは完全に飛ばせず数分近く早送りで見なければならないので、微妙に時間を取られるのがちょっと気になりました。
また、スキップも要所要所で使う必要があり、例えばゲームの流れとしては以下のように
①会話パート
②脱出パート
③会話パート
④ステージクリア(次のステージへ)
というのが基本になるんですが、これらはスキップ一回だけでは飛ばすことができず、
①会話パート
↓
スキップ使用
↓
②脱出パート
↓
スキップ使用
↓
③会話パート
↓
スキップ使用
↓
④ステージクリア
というように全て飛ばしたい場合はイチイチ3回もスキップしなければなりません。
前述の通り、後半はエンディング回収のため一度見たステージを何度も見る必要があるので、その度に上記のようなことをするのは正直めんどくさかったです。
おわりに
以上、『密室のサクリファイス/ABISS OF THE SACRIFICE』のクリア後レビューでした。
とにもかくにも難しいゲーム性にハードなストーリーが組み合わさったかなり硬派なゲームです。
パッケージイラストを見て下手な先入観を持とうものなら間違いなく痛い目を見るでしょう。
ストーリーも鬱ゲー成分が強いものの、その分トゥルーEDに至った時のよかったね感は素晴らしいです。多少ツッコミどころはありますが・・・。
というように全体的には人を選ぶテイストで万人受けはちょっとしないと思いますが、骨太の脱出ゲームないし謎解きがしたい方には自信をもっておすすめできるかと。