はじめに
ここでは、レイジングループをクリアした感想をつらつら書いていきます。
※クリア後の観点から書いているのでネタバレ注意です
本作は2015~17年にアプリゲームとして配信されていた同作をコンシューマに移植し、そこに追加要素を加えた作品で、霧で閉ざされた山奥の村で行われる殺人ゲーム(人狼ゲーム)を生き延びるというサウンドノベルとなっています。
ゲーム概要
ストーリー
西暦2003年5月11日(木)、深夜。
バイクで気ままな一人旅をしていた大学院生・房石陽明は、土地勘のない山道を走行中道に迷ってしまう。
途中立ち寄ったコンビニで地図をもらい、一晩の宿を探すため近隣の集落を目指し進んでいると、その道中ある女性と出会う。
その女性は芹沢千枝実という女子大生で、聞くと彼女は陽明が目指していた集落・休水の住民だという。
千枝実の厚意により休水に案内され、その晩は千枝実の住むアパートに泊めてもらう陽明。
次の日、閉鎖的な休水の住民から冷たく接しられつつ、住民の手で回収してもらったバイクを修理し、直り次第すぐ出発しようと考えていたが、突如集落全体が濃い霧に覆われる。
霧の発生とそれを見て「おおかみが来た」とパニックになる住民達に対し、ただ困惑するしかない陽明は、その夜人狼のような謎の存在によって無残にも殺されてしまう。
しかし、殺された直後、気づくとなぜかバイクで道に迷っている11日の深夜に時間が巻き戻っていた。
疑問に思いながらも再び同じ手順で休水を訪れ、前の経験から人狼の襲撃を回避し、今度は生還に成功。
が、次の日も霧は晴れることはなく、住民達は「おおかみが自分達の中に紛れている」と判断、人狼を見つけ排除するために「黄泉忌みの宴」という協議を始める。
それは、ひとの中からおおかみを探し出して殺すという殺人ゲームだった。
周囲から隔絶された山奥の集落を舞台に、いつ終わるともしれない地獄のデスゲームが始まる。
本作の特徴
閉鎖空間×人狼ゲーム
本作は、
休水という山奥の閉鎖的な架空の集落を舞台に繰り広げられる人狼ゲーム
というのがコンセプトになっているサウンドノベルである。
そのため、全体的な雰囲気としてはホラーよりもサスペンスの色が濃い。
とは言っても、日本が舞台であるため人狼ゲーム部分もそれに合わせて日本ナイズされており、古来から休水一体に神話とともに伝わっている「黄泉忌みの宴」によって「おおかみ」を見つけ出すという風になっている。
なお、本作の大まかな舞台設定は以下の通り。
・舞台は人口十数人の小さな集落である休水
・休水の生活水準は低く、狩猟や農耕によって生計を立てている者がほとんど(一部は外へ出稼ぎに出ている)
・電気やガスは通っているが車やトラクターなどの重機、その他機械設備はない
・数km先には藤良村という人口1000人程度の村があり、そこで目に余る問題を起こした場合休水に強制移住となる
→このことから休水はある種の流刑地という側面を持ち、藤良は(表立って反抗されない程度に)休水を虐げあるいは冷遇している
※先祖代々休水に住んでいるという場合も多い
・周囲は森に囲まれており、かつ宴中は霧によって数m先の視界すら確保できないため、外部との接触および逃亡はできない
・申奈様というこの地特有の神を信じており、程度の差こそあれ住民達はそれなりに信心がある
→この信心が黄泉忌みの宴を行う原動力に結びついている
黄泉忌みの宴
本作のメインと言っても過言ではない要素。
黄泉忌みの宴とは、黄泉から現世に戻り、人に紛れ人を食らう「おおかみ」(3名)を見つけ、処刑するために執り行われる宴。
設定上おおかみは住民に成り代わっていることになっているが、それはあくまで言い伝えによる設定にすぎないため、実際は「ランダムで選ばれた住民がおおかみの役割を担う」という形式をとっている。
基本ルールは以下の通り。
・集落全員による協議によって、おおかみだと思われる「ひと」を日ごとに一名選び「くくる(処刑する)」
→選出方法は自由。作中では基本的に投票制
・宴は一日一回、日没を期限とする(開始時間の指定はない)
・日没後は、速やかに次の宴の支度
「みそぎ(身体を洗う)」
「ものいみ(鍵付きの一人部屋に留まる)」
「ゆめまくら(早寝する)」
をしなければならない
→どれか一つでも破ると「けがれ(申奈様によるペナルティー)」を受けて死亡
・夜間はおおかみのみ行動を許される時間で、おおかみは毎夜ひとを一人殺害することができる
→一人以上殺すと「けがれ」を受けて死亡
・おおかみによる殺人行為は加護でしか阻止できず、またひと側は朝になるまで殺人があったことすら感知できない
→加護で止められない限り、おおかみの殺人は保障されている
・ひとの殺人行為は宴でのくくりを除き、一切認められていない
→破ると「けがれ」を受けて死亡
・ひとがおおかみを全員くくるか、おおかみがひとを全員殺すまで宴は繰り返される
4つの加護
ひとには、おおかみに対抗する手段として、この地の神である申奈様から加護(役割)が与えられる。
加護は宴の初日にランダムで決まり、宴の全行程が終了するまで変えることも放棄することもできない。
また、加護を受けたかどうかは受けた当人のみしか知り得ず(さるは例外)、それを物理的に証明する術はない。
加護の種類は以下の通り。
・へび(1名)―一晩に一人だけ、名前を書いた紙を枕元に置いて眠ると、その人間がひとかおおかみかを知ることができる。
・さる(2名)―固有の能力はないが、さるは互いにさるだということを認識できる。
→周囲に自分達はおおかみではないと証明できる
・からす(1名)―宴によってくくられた人間が、ひとかおおかみかを確認できる。
・くも(1名)―一晩に一人だけ、名前を書いた紙を枕元に置いて眠ると、その人物をおおかみの攻撃から守ることができる。
ループとキー
主人公である陽明は、死ぬことで宴が始まる前の5/11に戻れるという特異な力を何者かによって授けられており、死に戻り(ループ)を繰り返し黄泉忌みの宴の攻略を目指すことになる。
ループにより周囲の人間関係はリセットされるが、死亡時の記憶は全て持ち越されるので記憶は蓄積される。
※ループ能力があることは他の住民は知らない
また、本作は選んだ選択肢でストーリーが分岐するが、この分岐に行くためには「キー」と呼ばれる特殊なアイテムが必要。
キーは基本的にバッドエンドを迎えることでしか入手できず、
①バッドエンドで死ぬ
②キー入手
③キーで行けるルートに分岐
というように、ループ能力を生かしてキーを入手し、それを使ってその後の展開を分岐させていく。
例えば宴が始まる前夜、トイレに隠れておおかみをやり過ごそうとしていると外で悲鳴が聞こえた場合、二つの選択肢が登場。
最初の段階では上の「飛び出して様子を見に行く」という選択肢しか選べず、選ぶともれなくおおかみに襲われて死亡するが、これで死ぬことにより、キー・02が入手できる。
このキーを入手した状態で再度同じ場面に戻ると、選べなかった二つ目の選択肢が出現。
下の「じっとこらえる」を選択するとおおかみに襲われず生還し、ストーリーが進む。
このようにしてループしながらキーを集め、集めたキーを使って先に進んでいきクリアを目指す。
感想
良かった点
ストーリー
よそから来た主人公が、周囲から隔絶された閉鎖的な集落で超常現象に遭遇し、謎の因習に巻き込まれるというオーソドックスな物語を下敷きとし、
そこに人狼ゲームとループ能力というエッセンスを加えることで、一風変わったクローズドサークルものになっているストーリーはシンプルに面白かったです。
そこで行われることは人狼ゲームに近いものですが、特徴として
・プレイヤー全員が顔見知り
→主人公はよそ者のため何かと疑われやすい
⇒もっと言えば処刑されやすい
・主人公が生存した状態でゲームに勝たなければループしてしまう
→協力プレイで自分の陣営を守るのではなく、ある程度他を犠牲にしてでも自分が生き残る立ち回りをしなければならない
・ループしてもおおかみ役、加護持ちは変化するため覚えゲーができない
という前提条件があるので、通常の人狼ゲームとはやや違う攻略法が求められ結構スリリングです。
ただ、主人公の陽明はかなり頭が切れるキャラで、必要とあらば他人を捨て駒として利用するタイプの人間であるため、したたかに、そして大胆に立ち回っており、ある種爽快感すらありました。
非常に丁寧な作り
本作はチュートリアルでの細かな説明や、バッドエンドに到達するとヒントとして分かりやすく攻略手順を教えてくれるなど、かなりユーザーに配慮しています。
そのため、この手のゲームに不慣れな場合でも攻略サイトに一切頼ることなくクリアできるでしょう。
UIも見栄えより機能性重視といった感じでとっつきやすく、操作にストレスは感じないのも〇。
また、動画配信に対するスタンスや配信可能範囲などもきっちり明確にしているなど、ユーザーにできる限り真摯に対応している点が好印象でした。
ボリューム
本作は、サウンドノベルとしては結構なボリュームがあり、ボイスを飛ばさなければクリアまでおよそ25時間程度かかります。
また、クリア後解放されるエクストラストーリーや、後述の暴露モードの存在も相まってボリュームはさらに増し、全部触れる場合40時間ほどかかるかと。
※暴露モードでしか到達できないエンディングも2種類存在
これ一本でそれなりに遊べます。
暴露モード
個人的に一番好きだった部分。
エクストラストーリーと同様2周目から解放されるモードで、
1周目では分からなかったキャラの心情や、
主人公が行動している裏で他のキャラは何をしていたか(一方その頃〇〇は・・・的なやつ)
など、キャラの本音部分や本編では明らかになっていない行動が文字通り暴露されます。
この暴露モードだけでも7、8時間程度の分量があるので、本編に関しては裏の裏まで余すことなく楽しめるでしょう。
悪かった点
トリックという名のゴリ押し
一番残念だった部分。
ゲームの核心部分なので詳しくは説明できませんが、宴で起こる数々の異変は人間の手によるトリックにすぎないということが判明します。
人為的なものでしたーというのは大いに結構なんですが、肝心のトリックがなんというかゴリ押し感がすごく、
おおかみが鍵のかかった部屋に侵入できるのはなぜか
→宴を監視する人間が外部から遠隔操作で開錠していたから(古い家屋には実は電子錠が仕込まれていた)
なぜひとは無抵抗のままおおかみに殺されてしまうのか
→夜間ひとは麻酔で眠らされていたから
けがれで人が死ぬのはなぜか
→外部から宴を管理する人間(とその犬)が、違反者を直々に殺しているから
という感じで半ば興醒めしてしまう真相が多かったです。
疑問点を投げっぱなしにせず、「謎の怪異が起こしていた」というような安易な事実を提示しようとしなかった点は評価できるものの、ちょっとゴリ押しが過ぎるかなぁと。
黒幕サイドの涙ぐましい努力によって宴は成り立ってたんやなって・・・。
ただし、エクストラストーリーのある話を見れば、スタッフ側も意図してこれをやったと推測されます。
おわりに
一言で言えばよくできた面白いゲームでした。
オカルト要素も決して少なくはないですが、
「作中起こる不可思議な現象は、トリックで説明可能なら怪異ではなくトリックが使われている」
という開発スタッフの方針により、ストーリー全体としては現実性7割・オカルト3割ぐらいの塩梅となっています。
特に骨子となる人狼ゲーム部分は(加護を除き)オカルト要素皆無の真剣勝負なため、プレイヤー同士のスリリングなやり取りを楽しむことが可能です。
なので、和風サスペンスとして、あるいは人狼ゲームを題材にした物語として魅力を複数併せ持つ作品と言えるでしょう。