はじめに
ここでは、『チキンポリス』をクリアした感想をつらつら書いていきます。
※核心部分のネタバレはしていませんが、クリア後の観点から書いているのでネタバレ注意です
本作はThe Wild Gentlemenというハンガリーのスタジオが開発したゲームで、人型の動物達によるハードボイルドなストーリーを楽しむテキストアドベンチャーとなっています。
人型の動物と聞くとギャグっぽい印象を受けますが、本筋はいたって真面目かつシリアスです。
テイストはフィルムノワール感満載。
なので、重厚感のあるストーリーを楽しみたい方にはうってつけの作品と言えるでしょう。
ということで、まずはゲームの概要から。
ゲーム概要
ストーリー
様々な動物達が暮らす大都市・クロービル。
定年までおよそ4カ月に迫っていた警察官のサニーは、ある日の夜帰宅すると自室で見知らぬ女性との邂逅を果たす。
女性の名はデボラ。
彼女はナターシャというクラブのオーナー兼パフォーマーの代わりにサニーのもとを訪ねてきたらしく、彼女に代わってサニーにある依頼を持ちかける。
その依頼とは、「この頃自分(ナターシャ)を脅迫してくる犯人を見つけて欲しい」とのこと。
色々あってこれを承諾したサニーは、一人でこのヤマを追うのは難しいと判断。
昔タッグを組んでいた同僚のマーティンのもとを訪ねる。
サニーとマーティンは10年来のコンビで、かつては「チキンポリス」という二人組として街にその名を轟かせていた。
が、現在はとある事件がきっかけでコンビを解消しており、関係がギクシャクしていた。
最初サニーの話に乗り気どころか敵意すら向けていたマーティンだったが、サニーの説得の末了承。
二人は再びチキンポリスを結成し、この脅迫事件の捜査を開始するのであった。
本作の特徴
登場キャラは全て動物
本作最大の特徴。
このゲームでは人間は一切登場せず、動物達しか存在しない世界でストーリーが展開される。
※人間は空想上の生物として認識されている
ただ、出てくる動物は純粋な動物ではなく人型の動物であり、生活様式は人間そのもの。
普通に衣服を着るし車にも乗るしで文明的な生活を営んでいる。
趣としてはやや擬人化されているという具合か。
とは言え動物としての特徴は色濃く出ており、尻尾がある動物は尻尾が生えていたり、キリンのように首が長い動物ならしっかり首が長い。
また、動物間の関係性もある程度現実に即している面もあり、捕食者に対する被捕食者の恐れを示す描写などは時折見受けられる。
ex)鶏のサニーとマーティンが蛇のキャラに相対すると本能的に震えるなど
ポイント&クリック形式のADV
本作はポイント&クリック形式のアドベンチャーとなっている。
色々なキャラやオブジェクトをクリックして情報やアイテムを収集していくというオーソドックスなスタイル。
調べられる箇所には目のアイコンが表示されるため分かりやすい。
時折ミニゲームという形で謎解きやアクション要素も挟まれ、単調にならないような工夫もされている。
また、キャラを選択すると、ただの会話ではなく「見る」「話す」「尋ねる」「尋問する」の4項目が表示される。
「見る」は、相手を見てサニーとマーティンがそれぞれの印象を語る。
「話す」は、読んで字の如く実際に相手と話す。
「尋ねる」は、特定のキャラや重要アイテムに関する質問をし、それに関する情報を得る。
「尋問」については後述。
尋問パート
キャラによっては相手を尋問するパートに突入する。
尋問パートは相手の性格や考え方を把握しつつ、どのような切り口で質問するかを考え実行。
こちらに有利な質問をすれば画面右下の刑事メーターが上昇、逆に相手の機嫌を損ねたり誤った質問をしてしまうと低下する。
このようにして、こちらに必要な情報を集め切るとクリア。
最終的に尋問ランクが表示される。
なお、このランクがストーリー展開に影響を及ぼすことはない。
ゲームの実績に関係してくる程度なので、実績解除を目指す場合意識する程度のものと思っていいだろう。
感想
良かった点
ハードボイルドながらもウィットに富んだストーリー
ストーリーの本筋は大真面目なハードボイルドって感じですが、小粋なジョークが常に飛び交うため、雰囲気自体はそれほど暗くありません。
例えば主人公のサニーは鶏ですが、
・「俺はニワトリだけど朝は弱いんだ」
・「おっと俺としたことがとんだヒヨッコみたいなこと考えてたぜ」
・「(鶏の相棒に向かって)お前チキンだな!」
みたいな軽口を割とコンスタントに呟きます。
よくそんなポンポン思いつくなって感心するレベル。
おかげでガチシリアスな流れでもいくらか中和されていて、重苦しさはそこまで感じませんでした。
個人的にはサニーとマーティの
サニー「そんなもの(コーヒー)呑むなよ、マーティ。健康に悪いぞ。」
マーティ「サニー、あんたは俺の健康に悪いよ。」
というやり取りが一番好きでしたね。
洋画とかでありそう。
こういったジョークにクスっとくるなら、おそらく問題なくこのゲームを楽しめると思います。
なお、ジョークはあくまで物語のフレーバーであって本筋はハードボイルドあり、ジョークメインで下手なコメディみたいになっているわけではありません。
これでゲームの雰囲気が壊れているとかは全くないのでその点は大丈夫です。
この辺りのバランスはしっかりしてます。
また、登場動物も魅力的で
・定年間近で昔のような若々しさはないが、警官としての情熱や能力は衰えていない主人公のサニー
・喧嘩っ早くて口が悪いが、要所要所でサニーの心の支えとなる相棒のマーティ
・ミステリアスが服を着て歩いていると言えるほどに底が見えない美女のナターシャ(サニーの依頼人)
・重度のワーカーホリックで非常にクールながら、チキンポリスの二人を何かとフォローしてくれる同僚のモニカ
・モルヒネ中毒で時折マッドなこともやらかすが、腕は確かな闇医者のブーボー
など、印象に残るキャラが多いです。
見た目は動物なのに人間臭いというギャップも面白く、ゲームの魅力の一つとして成立しているなぁと。
調査箇所の会話が豊富
街に点在するオブジェクトを調べると、サニーとマーティンの会話(主にそのオブジェクトについて思うこと)が始まるんですが、この会話のレパートリーがかなり多いです。
一つのオブジェクトにつき大体3回程度の会話が発生します。
調べられるオブジェクトは一つの調査ポイントにつき3、4つ程度あるので、一か所で十数パターンの会話を聴くことが可能です。
しかも驚きのがこれらの調査可能オブジェクト、チャプターが変わる度に会話内容が更新されるんですよね。
全てが更新されるわけではないものの、全体のおよそ8割以上のオブジェクトはチャプターが進むごとに変化すると言っていいです。
なのでチャプターが変わった後もオブジェクトを調べる意義があり、二人の多種多様な会話を聴くことができます。
ここに作り込みの深さを感じましたね。
ゲーム自体は大体7、8時間ほどあればクリアできるボリュームですが、ボリュームに対するテキストの密度はかなり濃かったなと。
ただし、RPGでよくある「村人全員に話しかけたい派」の人からすればちょっときついかもしれません。
かくいう自分がそうでした。
でも気になっちゃうんだよなぁ・・・。
非常に自然な翻訳
翻訳は非常に丁寧かつ自然です。
洋ゲーのローカライズなんかで時々ある「機械翻訳レベル」のものは一切見受けられませんでした。
これ原文日本語?と錯覚してしまうほどのクオリティだったと思います。
ローカライズを担当したスタッフさん達が心を砕いたであろうことは想像に難くありません。
特に人を動物的表現に当てはめることは徹底されており、
例えば「人生」という何気ない単語も、鳥なら「鳥生」、猫なら「猫生」と発言する動物に応じて言い換えられ、
「巨匠」は「巨獣」、「人種差別」は「種族差別」、チキンポリスの「二人」は「二羽」など抜かりなく変換されています。
おそらく原文verではここまで徹底されていないと思われるので(原文だと人生は普通にlifeになっている)、ローカライズ班の強いこだわりを感じましたね。
一方で、警官を「景観」、~にあるを「~にAる」などの細かい誤植はそこそこありますが、文意が分からなくなるレベルのものはなく、全然許容範囲だったなと。
悪かった点
捻りのない終盤
先が気になるストーリーの本作ですが、終盤の真相に至るまでの流れはいささか捻りがないです。
というのも、この手の物語のセオリーを裏切ってこないんですよね。
ネタバレになるので詳しくは書けませんが、
「多分こいつが真犯人だろ(いや流石に安直過ぎるか・・・)」
↓
本当にその通りでした
という感じ。
誰にでも思いつく可能性がそのまま答えだったという味気ない真実が待っています。
この点はシンプルに残念でしたね。
こっちとしてはありきたりな予想をどう裏切ってくるのか期待してたのに・・・。
しかも動機もいたって普通という。
なので、意外性やどんでん返しという点で見れば本作はどうにも物足りなかったかなと。
テキストの仕様
UIはちょっと扱いにくい部分が見受けられました。
特に目についたのは、テキストが自動的に流れていく点。
例えば、
今朝は7時に起床した。
朝食は食パン一枚で済まし、8時には家を出た。
今日は大事なプレゼンがあるから気合を入れなければ。
という文章があったとします。
この場合、多くのゲームだと句点ごとにテキストが止まり、決定ボタンを押すことで次のテキストを読み進めていくのが一般的です。
そのため、
今朝は7時に起床した。決定ボタン
↓
朝食は食パン一枚で済まし、8時には家を出た。決定ボタン
↓
今日は大事なプレゼンがあるから気合を入れなければ。 決定ボタン
というように、自分のペースで読み進めていくことができます。
が、本作の場合はこれが句点で止まらず連続している場合があり、
今朝は7時に起床した。朝食は食パン一枚で済まし、8時には家を出た。今日は大事なプレゼンがあるから気合を入れなければ。 決定ボタン
というように一息で全てのテキストが表示され、枠に収まらない部分は見切れて読めなくなってしまいます。
こちらの読むスピードに関係なく勝手に流れる仕様です。
映画で言うと、エンドロールが下から上に流れていく感じと言うとイメージしやすいでしょうか。
この仕様のせいで、読むのを急かされることも少なくありませんでした。
本作はバックログもないので、読み切れなかったテキストに関しては会話リプレイという機能を使って最初から読み直す他ないです。
こういった部分にはどうしても不便さを感じましたね。
せめて枠内でスクロールできればよかったんですが。
余白が多い世界観と設定
本作の世界観や設定はしっかりしています。
・この世界が辿った歴史
・世界にはどれぐらいの広さで、どのような国があるか
・捕食動物と被捕食動物との関係性、違う種類の動物との関係性
・本作の舞台となるクロービルの実態
など、煮詰められているであろうものが多いです。
ただ、これらは「であろう」の域を出ておらず、漠然とした設定説明はあっても深く突っ込んでいるわけではありません。
どれも結構ぼかされています。
なので、あくまで個人的にはですが、情報開示がちょっと中途半端だなぁと思ってしまいました。
肝心なところでお預けを食らう感じ。
物語を理解するための情報はほとんど提示されるので、楽しむ分には全く問題はないんですが・・・。
とりわけ作中では違う種類の動物のカップル(猫とネズミ、フクロウと熊など)が割と出てくるものの、二人の間に子供はできるのかみたいなデリケートな部分はちょっと気になってしまいましたね。
ただ、敢えて情報を伏せることで考察の余地を狭めないという配慮は間違いなくあると思います。
おわりに
以上、『チキンポリス』のクリア後レビューでした。
動物×ハードボイルドという異色作です。
色物かと思いきや大真面目なゲームでストーリーは骨太。
純粋に面白かったですね。
シリアスとコミカルのバランスがちょうど良く、重苦しくも軽くもない雰囲気で最後まで堪能できました。
個人的には余白の多さが少々気になるところですが、もしかしたら続編が出て深堀りされてもおかしくはないので、ちょっと期待しておきます。