はじめに
ここでは、『ファタモルガーナの館』をクリアした感想をつらつら書いていきます。
※ネタバレはほぼありません。
本作はNovectacleから発売された作品で、古びた屋敷で起きた悲劇を見ていくことで、屋敷に眠る謎を解明していくというサスペンスホラーとなっています。
初出が同人ゲーながら、美麗なイラスト、緻密な伏線および幾重にも重なる物語構造とそこから次々起こるどんでん返しのシナリオといったゲーム全体の完成度の高さが注目を浴び、ps4やスイッチにも移植されるなど高い評価を得ている作品です。
ゲーム概要
ストーリー
ある古びた屋敷で目覚めた「あなた」。
「あなた」は記憶も自身の名前さえも忘れていた。
その「あなた」の前には不思議な雰囲気を纏った女中がいる。
女中は「あなた」を旦那様と呼び、そして「あなた」の名前や記憶を思い出させるため、屋敷に眠る記憶を追体験してもらうという。
次々と屋敷の悲劇的な記憶を見ていく「あなた」。
果たしてこの屋敷は何なのか?「あなた」は何者なのか?そして女中の正体は?
本作の特徴
オーソドックスなテキストADV
本作は、テキストを読み進めつつ、時には選択肢を選び物語の流れを変えていくというオーソドックスなテキストアドベンチャーとなっている。
選択肢を選ぶ機会はそう多くはなく、基本的にはノベルゲームとしての色が濃い。
比率としては、ノベル8:アドベンチャー2という具合。
次々と悲劇が起こる陰鬱な物語
物語の舞台は古びた屋敷。
かつてその屋敷で起こった数々の悲劇を謎の女中とともに見ていき、屋敷のこと、女中のこと、そして「あなた」のことについて隠された真実に迫っていく。
という内容のためシリアスなシーンが多くを占めており、端的に言って暗い。
さらにバイオレンスな描写も多く、絵的にはぼかされているがテキストではかなりギリギリを攻めた表現も出てくるので、そういった意味でも陰鬱な気持ちにさせられる。
ただし悲劇が起こったこと、それを見せられていることにはれっきとした理由があり、理由さえ分かれば後は・・・という感じで決して暗いだけに留まっていない。
しっかりとカタルシスは用意されている。
少々ネタバレになるが、作品としては「報われる鬱ゲー」というテイストになっていると言えるだろう。
補足:本作のターゲット層について
本作は「悲劇」が特徴の鬱ゲーであるが、その悲劇というのは「男女の恋愛絡みによるもの」がほとんど。
そのためジャンル的にはサスペンスホラーとは銘打たれているものの、実際はそこに恋愛要素が多分に含まれており、テイストはやや女性向け。
印象としては「男でも読める女性向け小説」という感じ。※個人の印象です
感想
良かった点
真っ向勝負の伏線と罠
このゲームにおける伏線は比較的分かりやすいです。
集中して追っていればおそらくあまり取りこぼしません。
が、伏線ばかりに注意を払っていると、極めてシンプルな叙述トリックに気づきづらく、まんまと騙されます。
これが面白かったですね。
伏線は嫌らしいものはなく、(言い方が変ですが)正々堂々と張られているのに、それ以外の部分でどんでん返しされるとは思ってませんでした。
いやまぁそのどんでん返しの部分にもしっかり伏線はあるんですけどね。
ただ、ある人物に対する根本的な疑問を持ち続けてないと結びつけづらいと思います。
自分は初期に疑問を持ってはいたんですが「まぁそんなもんなのかな」と思い直してしまったので、まんまと引っかかりました。ここは悔しかった。
ヒントは「名前」です。第一印象でほぼ確実に「あれ?」ってなると思います。ガンダムで言うとジェリド的な。
その疑問を持ち続けられるか否かで、ある場面での驚き具合は変わるでしょう。
ノベルゲーを生かしたギミック
テキストを読むのがメインのゲームでは必ずと言っていいほど利用する機能があると思いますが、本作ではそれを上手く利用したギミックがあり、斬新で面白いです。
気づかずとも特に問題はないんですが、気づくと早い段階で核心に迫ることができ、物語の見方が変わります。
自分は本当にたまたま気づいたんですが、これのおかげでマンネリ感が払拭され没入感が少し高まりましたね。
いやそれまではマンネリしながら進めてたんかいって話ですが。
一部ぶっ刺さったBGM
BGMはこの手のゲームでは珍しく、歌付きのものが多いです。
最初聴く時はちょっと「うおっ」となりますが、本作では現代編を除きキャラクターボイスはないので、歌とは言っても自己主張し過ぎず地味過ぎずという感じでちょうどいい塩梅に落ち着いています。
また、ラテン語やポルトガル語などが中心で日本語の楽曲はない点も〇。文字通りBGMとして聴けます。
中でも一番いいと思ったのは、3章で流れる「Ciao Carina」という小気味の良いジャズ。
重苦しくクラシカルな曲が多い本作において、一際異彩を放つ曲です。
久々にヘビロテしたくなるBGMに出会いました。指パッチンしながら聴きたくなる。
ちなみにこの記事もこの曲ヘビロテしながら書きました。
トロコンが簡単
ps4版のトロフィーは作業要素が一切なく、ストーリーを一通り見るだけでトロコン可能です。
テキスト量が多いので時間はかかるかと思いますが、邪道な機能(未読スキップ)を使えば時間短縮はできるので、トロコン難易度は容易な部類だと思います。
自分の場合、大体40時間程度でトロコンできました。
悪かった点
スロースターター&過度に悲劇的なストーリー
ストーリーは全8章構成ですが、うち4章前半ぐらいまではチュートリアル的な感じで正直言って退屈です。
本格的にギアがかかってくるのは4章中盤からになります。
良く言えば下準備が入念、悪く言えばスロースターターという感じ。
なので序盤3章で物語に入っていけないと結構辛いです。
決して内容が薄いというわけではなく、悲劇的な話が続くので印象的ではあるんですが、「どう?悲劇的でしょ?」と言わんばかりなのがちょっと受け付けにくい。自分が捻くれてるだけなんでしょうか
そのせいかすごく客観的な目で見てしまって感情移入があんまりできなかったですね。
悲劇を目指し過ぎるあまりリアリティに欠けてる感。
これに関しては前半だけでなく物語全体に言えることではあります。
ちょっと手前で止めてたら心抉られたかもしれません。
ピークが過ぎるのが速い
個人的に強く感じた部分。
上述の通りストーリーは4章中盤から動き出し、屋敷のことや女中のことなど真相が次々明らかになっていくんですが、終盤に入る前に大体のことが判明してしまいます。
で、その後は分かった事実を基に全てをやり直そう的な先の見える展開が始まり、それ以降はぶっちゃけ退屈気味に進めてました。
「はいはいどうせ最後はハッピーエンドなんでしょ?」みたいな。やっぱ捻くれてるんでしょうか
まぁ悲劇が続いた分、予定調和な展開でもカタルシスはあるんですが、読み進めるモチベは謎が多い中盤の方が高かったですね。
そういう意味では、ピークが過ぎ去るのが早かったように思います。※あくまで個人の感想です
違和感ある言葉遣い
地味に気になった点。
物語の時代設定は現代だけでなく、中世~近代と様々な時代をまたいでいるにもかかわらず、使われる言葉や表現が時折現代的なものがあり、違和感が中々すごいです。
例としては、
罰ゲーム、~するタイプ、マジで、グロい、イケメン
など。
おそらく当時も上記の表現に該当するスラングがあったと思うんですが、それを現代語に変換されるとちょっときつい。
少し現実に引き戻される感覚がありました。
あと、コミカルなシーンもノリが割と現代的なのも目につきます。
・あ、今〇〇って思いましたよね?ねぇ!思いましたよねぇ!ちょっと聞いてますかー!
とか
・〇〇とかそれ~なんですけど~!!
みたいな。
この辺は良くも悪くも同人っぽさがあるかなと。
蛇足な後日談
このゲームは何個かバージョンがあり、自分がプレイしたのは『ファタモルガーナの館 -DREAMS OF THE REVENANTS EDITION-』という本編に加え外伝やフルボイスの現代篇等を含めた完全版だったんですが、この追加要素にあたる物語が蛇足でした。
なんというか適度に残った余白を無理に塗り潰そうとしているように感じてしまったんですよね。
特にショートストーリーなんかはそこは別に掘り下げなくても・・・というシーンがちょくちょくあって、途中で読むのを断念してしまいました。
が、中でも気になったのは現代編。これが一番蛇足だったかなと。
本編は綺麗に終わったのにもかかわらず、現代でも本編と同じようなことを繰り返しててまたかい・・・って感じ。
悲劇のレベルこそ下がってますが、ここまでくると流石にくどい。
しかも描写の一つ一つが冗長というか水増し感があるのがまたなんとも。
追加要素にある程度ボリュームを担保する必要があるというのは理解できますが、そのせいで本編のようなテンポの良さや緻密さに欠けていたように思います。
外伝の一つである「ハピリーエヴァーアフター」(トゥルーEDの後日談)ぐらいの適度な感じがよかった。
おわりに
以上、『ファタモルガーナの館』のクリア後レビューでした。
破綻なく計算されたシナリオ運びが終始徹底されており、なおかつライターさんが物語の展開や趨勢を掌握しているのでツッコミポイントがほとんどなく、その点は安心してプレイできました。
評価の高さにも納得です。
が、個人的な感想を言うなら、思っていた以上に恋愛要素が強く(カップルが数組出てきます)、悲劇もちょっと狙い過ぎているように感じられ、正直肌には合いませんでしたね。
やっぱり女性向けっぽいテイストなのかなと。
なので恋愛劇にどの程度興味があるかで物語の面白さは多少上下するかもしれません。